『時空を越えて (2)』~時代もの大好き・番外編~

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時空を越えて~その2~



それからは、二人とも卑弥呼と月読のブレーンとして忙しい日々を送る事となってしまった。
幸い、タマネギ内蔵のコンピューターのデータベースには、役に立ちそうな知識がいろいろ入っている。
「歴史を改変することにはならないだろうか?」
そんな疑問を抱きつつも、二人は生き延びるために次々と知識を教えていった。

その中でも、醸造法は卑弥呼店長のお気に入りとなった。
コメや芋から作られる夢のように薫り高い酒を、こよなく愛でた卑弥呼は、野いちごとちいらんばだに感謝の舞いを舞ってみせてくれた。
「なんだかランバダみたいな踊りですねえ」
舞い狂う卑弥呼を見ながら、野いちごがふと呟いた。
「元の世界が恋しくなりましたか?」
ちいらんばだも、その舞いを見ながら寂しそうな様子であった。
「お二人とも浮かない顔ですね。
今日は珍しい穀物の粥を作りました。召し上がってください。」
そこへ月読が椀を持ってやってきた。椀の中身は大麦の粥だった。
「最近、わが邪馬台国でも栽培を始めた外国の穀物です。」
野いちごはそれを見ると、
「この大麦を使って美味しい飲み物を造ってみましょう。」
そして、麦芽カラハナソウを使ってビールを作りあげた。
苦味が少々薄いが立派なビールになった。

このビールはことのほか月読のお気に入りになり、卑弥呼店長とともに酒を酌み交わすのか日課となった。
「さすがにまずいよ、野いちご君。」
「でも、会長、アーニスさん嬉しそうに飲んでますよ。ほら、卑弥呼さんと一緒に踊り始めた。」

本当に冷静な補佐官を持って任じていた月読が楽しそうにムーンウォークをしながら卑弥呼とともに踊っている。
踊りまくる二人を残してちいらんばだと野いちごは、そっとその場を離れた。
「燃料さえあればなあ・・・」
「会長、タマネギってどんな燃料で動くのですか?」
「もちろんオイルだよ。」
「どんな種類の?」
「さあ、気にしたことはなかったなあ。どんな種類でもいいんじゃないかな?」
野いちごの顔がサッとこわばった。
「ま、まさか菜種油やゴマ油でもいいんじゃないでしょうね!!!」
「いや、いいはずだよ。取り説をちゃんと読んでないので詳しくないんですよ。」

野いちごは脱兎のごとくタマネギに駆け寄って、艇内から取り説をつかみ出すと・・・。
「ああ、戻れるわ!」
と叫んだ。
「取り説にはなんと?」
「なんとじゃありませんよ、会長。ここにオイルは植物性のものならなんでも、って書いてあるじゃありませんか!」
野いちごとちいらんばだは、保管庫の油の甕から1リットルほど汲むと、タマネギの上部の補給用の穴に注ぎ込んだ。


機体が振るえエンジンが始動した。
「早く乗ってください!」
ちいらんばだが駆け込むとタマネギは爆音とともに空へと舞い上がった。

「ああ、行ってしまう!!」
タマネギを見上げる邪馬台国の人々。
そして、まだ酔いの残った眼差しで見上げる卑弥呼と月読。

「ああ、彼らはいずこかへ旅立ってしまった。もう戻ってはこないのだろうの。」
「姉上、彼らの教えてくれた様々な知識は、この月読がしかと書き残しました。これからはその知識を本当に役に立つよう工夫して活かしていくという仕事が待っています。」
「そうじゃ。わらわも、もっと美味しい酒をもっと大量に造る技術を研究させねば。」
「いや、そうじゃなくて・・・」
言葉につまった月読も、消えていくタマネギの残した雲を見上げていた。

しばらくして、月読の顔色が変った。
「い、いかん!あまりの美味しさに飲んで踊っていたおかげで、びいるの造りかただけ書き残すの、忘れた~~~~~!!!」
青く澄みきった空に月読の悲しい叫びが吸い込まれていった。


一方、ちいらんばだと野いちごのコンビは、再び宇宙の旅人となっていた。
「会長、これでまたどこへでも行けますね。」
「うん、そうだね。いやはや、あの世界にホネを埋める覚悟をしていたけど、よかったよかった。」

『よかったよかったじゃないわよ。もっと早く気付いていれば!』

にこにこしている会長に、心の中で、しこたま突っ込みをいれた野いちごであった。

「野いちご君、次はどこに行こうかなあ」
ちいらんばだののん気な声が、広大無辺の大宇宙に明るく響いた。

こうして、植物性油(オレイン酸がベスト)で稼動する謎のタマネギとともに二人の時間旅行は続くのであった。




作品中に登場する個人、団体名はすべて架空のものです(たぶん(笑))