『時空を越えて (1)』~時代もの大好き・番外編~

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みなさん、こんにちは。
時代もの大好きに参加して、mepoさん、たいりょうさんが「ビニ鉄」テーマに読みきりの作品を寄せるという楽しみな企画がスタートしました。

私も、僭越ながらその片隅に乗っけていただこうと、この作品を書いてみました。
御用とお急ぎでないかたは、ちょっと立ち止まってお読みになってみてください^^;

それでは、「時空を越えて」スタートです。

※プチ昼ドラ『ビニ本団長と鉄板句女』って何?という方はこちら→『ビニ鉄』全放送分



時空を越えて~その1~


球形の窓に映し出されるのは、真の闇。
その底に輝くのは赤い星。

金色のタマネギのような形の宇宙船は、遥か地球を隔てる事何万光年という距離を一瞬で跳躍した。
船内には静かな振動と深く眠り続けている息遣いだけが聞こえてくる。
特殊な形のシートには男女二人が生命維持装置をつけたまま、埋め込まれるようにしっかりとベルトで固定されていた。
やがて船内に静かなクラシック音楽が流れ、オレンジ色の照明が徐々に光度を上げていった。男女の乗組員は、覚醒の過程で味わう不快感に顔をしかめていた。

「野いちご君、」
「会長」
「大丈夫ですか?」
会長と呼ばれた男は隣の席にいる女性のほうを気遣うように見ている。
「はい、なんとか・・・」

二人は身体にまとい付くチューブや金具を外しながら、窓の外へと視線を移した。
そこは、広大な宇宙空間。
上下もないただ広く果てのない星星の海だった。
「きれい・・」
野いちごは、うっとりと呟いた。窓に寄ろうとすると無重力のせいで身体がふわりと浮き上がる。
「気をつけて」
会長は腕を伸ばして野いちごの身体をおさえようとした。しかし、慣れない環境に自分の身体までふわりと浮き上がり野いちごと一緒に窓ガラスに軽くぶつかった。

「ごめんなさい。ちいらんばだ会長」
「いや、無重力とはなんだか不便なものですね」
二人は窓につかまりながら、悠久の光をきらめかせる外界に見入っていた。
外は絶対零度の真空。
たまねぎの中だけが、唯一つの安全な場所だ。
「このタマネギ、あとどれくらい安全なのでしょうか?」
「さっきのワープで燃料は半分以上使ってしまった。酸素はかなり持つだろうが、空調で気温を保てるのはあと何日もないだろう。この宇宙で凍えることは死ぬ事と同じだからね。」
静かな口調だが、絶望的な内容だった。野いちごは唇をかみしめ
「そうですか、会長、死ぬ時は一緒なんですね。」
とちいらんばだを見つめ返す。
「いや、まだ希望はありますよ。これを見てください。」

その手に載せられていたのは一枚のプラスティックカードだった。
「本楽大学図書カード」

「こ、これは・・・?」
「野いちご君、このカードは普通の貸し出しカードに見えるが、実は時間旅行のプログラムが入った磁気カードなのだ。」
「時間旅行?」
「そう、時間と空間を自在に越えることのできる、タイムワープ・プログラムが組み込まれている。このカードと現在のタマネギの燃料の残量があれば、どの位置でも、どの時間でも自由に行くことができる。」
「すごいわ!会長!助かるんですね、わたしたち。」
しかし、ちいらんばだは浮かない表情だった。
「しかし、どこの時代へ行けばよいのか・・・」
「会長、そんなに悩まなくても、元の時代へ戻ればいいじゃないですか。また、本楽堂協会を立ち上げて・・・」
「いや、もうあの協会は終りにしよう。私は古本屋として生活していればよかったんだよ。」
ちいらんばだは、寂しそうに背を向けると一冊の本をとりだした。
「この歴史の本を読みながら、どこに行くかを決めるよ。君も自分が行きたい世界を考えておいてください。」

しばらく船内は静かな沈黙が降りた。

「会長、私、人間たちがまだ文明を持たない時代に行きたいな。」
突然野いちごが言う。
「文明を持たない時代?」
「ええ、まだ数も少なくて、自然がそのまま残っている時代。」
「そんな危険な時代にいきたいのか?」
「だって、もう汚染された飲めない川や、ゴミだらけの文明はいやなんです。それに中途半端に過去に行けば、私たちみたいなよそ者は迫害されるわ。
だから、誰もいない場所に行って、そこから始めたいんです。」
ちいらんばだも、遠い目をして野いちごの言う世界を想像していた。

「私たちが歴史をつくっていくわけですね・・・。」
「そう、二人がアダムとイブになるんですよ。」


磁気カードをスリットに差込むと、低い振動音が響いてちいらんばだの持っている歴史の本が振るえ始めた。
「それでは、縄文時代より前、石器時代へセットするよ。」
史書のページをめくり、旧石器時代のページにスピンをいれる。これで本を閉じればタマネギはその時代の日本へ飛んでいくのである。
そのとき。
ブブ~~~ッ!!!!
『エマージェンシー!エマージェンシー!!』
コンピューターで合成された女性の声がけたたましく響き、タマネギが激しく揺れた。
「うわあ!なななにが起きた!」
「きゃああ、会長!」
小惑星急接近により緊急回避を行います』
タマネギ内部は点滅するハザードランプに照らされ、立っていられないほどの振動に二人は為すすべもなく手を取り合ってうずくまった。

しばらくしてやっと船内は静けさを取り戻した。しかし、床に落ちていた本を拾ったちいらんばだの顔は青ざめていた。
「こ、これは!」
「大変だぞ。スピンがずれてしまった。
このページは・・・。や、邪馬台国!!」
「そ、そんな!会長!私たち、邪馬台国に来てしまったんですか?!」
「どうやら今の振動でずれが生じたらしい。いったい、どうしたらいいんだ・・・」
ちいらんばだは、窓の外を見ると振り返っていった。
「もう覚悟を決めるしかないようだ。見つかったぞ」

窓の外には古代の衣服を身にまとった人々が、大勢集まってタマネギ型宇宙船を取り巻いていた。
ほとんどの人は質素な麻のような布をまとっていたが、中にはきらびやかな衣装をつけた者も何人か見受けられた。

「出ましょう。こうなったら運を天に任せるしかないようです。」
野いちごの意外な力強い言葉に、ちいらんばだも頷いた。
エアロックを解除し、外気に触れる。
かぐわしい若葉の香りが鼻腔をくすぐった。
「なんていい匂いかしら・・・。」
「本当だ。過去の日本はこんなにいい空気が満ち満ちていたんだなあ」

のん気なことを言いながら二人はハッチを開けて外の人々の前に姿を現した。
どよめきがあがり、取り囲んでいた人の輪が後じさりする。
そのとき、凛とした声が響いた。
「みなのもの、怖れるな。
わらわと、わらわの弟、月読はすでに亀の甲羅占いでこの事態をば予想しておったぞよ。」
二人は声の主を認めて、あっと声をあげてしまった。
なんと、そこにはKatty's Cafeの女店主が立っていたのである。
さらに、彼女の斜め後ろに控えていたのは、あの貧ぼっちゃまで有名な、いや、ちいらんばだの部下だったアーニスだ。
二人ともに古代の衣装を着て、堂々とした風采である。
「店長、アーニスさん!」
思わず野いちごが声をかけた。
「そのほう、不思議な乗り物に乗っておるの。いずこから参った?」
「へ?」
ちいらんばだも、戸惑いを隠せない。なにせたった数時間前に別れたような感覚の店長とアーニスに、時空の果てで再会しようとは思っても見なかった異常事態である。
「ああ~、その~~、・・・未来から参りました・・って言うか宇宙からなんですけれども小惑星が大接近してしまって・・」
「なにを言っておるのだ。この者を捕らえよ!」
あっさりとお縄になるちいらんばだ。そこへ、
「お待ちください。私達は怪しい者ではございません。」
きっぱりと野いちごが顔を上げて店長に向き合った。
「乗り物の事故により心ならずもここに不時着いたしましたが、もう燃料がありません。
元の世界に戻る事はかないませんゆえ、この邪馬台国に留まりたいのです。
先の世を知っている私たち二人は、いろいろな知識をもっております。お二人の治めるこの世界に役に立つことを、たくさんお教えできると思います。」

ちいらんばだの何倍も頼りになりそうな野いちごの弁舌であった。

店長とアーニス、いや、この世界では卑弥呼と月読だが、野いちごの話しにいたく興味を引かれてしまい結局ちいらんばだも共にこの邪馬台国に住みつくことを許されたのである。
その上彼らは、外国から来た知識人ということで、破格の待遇で卑弥呼の住むような高床式の宮を与えられた。