岩明均 『七夕の国』~時代物、大好き~

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第一巻の解説
戦国時代の旧暦4月、島寺家では当主・島寺通康と家臣らが、戦会議を開いていた。敵である最上氏との打ち合いを有利にするためには、「丸神の里」に城を建てた方がいいという結論に達した。そこで島寺は、「丸神の里」出身である南丸忠頼に城建設を命じたが、忠頼は「もうじき里の者にとって重要な祭りが始まる」と、島寺に城建設の考えを改めるよう懇願した。だがその願いは受け入れられず、忠頼は首を斬られてしまう(第1話)。
戦国時代から時はたち、舞台は現代に移る。ある大学に通う南丸洋二は超能力を持っていた。だがそれは微々たるものであった。ある日、洋二は丸神教授に呼び出される。教授が自分の能力の研究のために呼び出したと思い込み、研究室に出向く洋二。だがそこには教授はおらず、代わりに講師の江見の質問を受ける。一族に関することを聞き出す江見であったが、洋二には質問の意図が全くくみ取れない(第2話)。
第1巻で、洋二は自身のルーツを知る。また、自分のルーツを探っていた丸神教授が行方不明になり、ちょうどその時、丸川町では奇妙な殺人事件が発生するこれはどうやら丸神教授失踪と何らかの関係があるようだが…

寄生獣」で才能をを開花させた岩明均の超能力SF漫画。

この作品は「寄生獣」のすぐ後に描かれた、いわゆる力量を試された2作目である。
重圧をはねのけて岩明均は見事に期待に答えている。

戦国時代から始まる物語は、丸神の里の人々の不思議な力を描いて、さらに覆面の首領、丸神氏の不気味な風貌を印象づけていく。島寺家に反旗を翻す丸神の里の人々は、数を誇り、武器も立派な軍勢をあっというまに壊滅させてしまった。
わずかな人数、しかも老人や女性までが本陣に並び、ただ両手を向かい合わせに開き祈るような仕草をしただけで。

島寺軍の兵隊はいきなり身体中に穴を穿たれて倒れていった。鎧も人体もおかまいなしの鋭利な刃物でえぐられたような穴。
僅かな時間でいきなり戦場は死体の山となり島寺の城主も討ち取られた。
そしてこの事件は歴史の闇に沈んでいった。

なんという強烈な能力だろう。
空中に浮かぶ謎の球体。それに触れるとパアンという炸裂音とともに球体の形に物体は抉られるように消失しているのだ。
能力の高いものは巨大な球体を作り出すことができるようだ。
そして、副作用とも言うべき呪わしい現象。
それが、容姿の変貌。
額に石をはめ込んだようなおできが出来る、そして能力を使い続けるうちにその石は成長し額を覆っていく。
さらには、顔全体が二目と見られぬ無気味な容貌へ変化を続けるようである。

手も上の画像のような怖ろしげな変化をとげる。

謎が謎を呼び、ホラー要素も加味された導入部、ここだけ読んでレジに向かわない人はいないでしょう。

時代変って現代の大学生、南丸クンのお話しになると、途端に脱力系のナン丸クンの性格にのほほんとした学生生活の描写。
彼の微超能力は確かに丸神の里の人が持っていた能力の1/100くらいしかなさそうだし、紙に2mmくらいの穴を開ける力なんてなんの役にも立ちそうにない。
真剣に悩むのは就職のこと。
そう、ごく平凡な学生なのだ。

しかし、何百年も秘密を守ってきた村の能力者が暴走を始めてしまう。里を開発しようとしていたゴルフ場建設派の議員が殺される。島寺の兵隊と同じやり方で・・・。

南丸は丸神教授という同郷らしき男の失踪に関わり、助手やゼミの学生たちと初めて自分のルーツである丸神の里を訪ねることとなる。

ここから南丸と、暴走する能力者頼之は対照的に描かれていくことになる。
寄生獣」のシンイチが、ミギーと同化して超人的な能力を得て、パラサイトたちと死闘を繰り広げるのに対して、南丸はあくまで能力が高まろうともそれをもって戦おうとはしない。

能力に振り回されるより、立ち止まって考えて行動する南丸の自然な姿勢はこの作品のテーマに直結する。
刺激的な謎を追う南丸一行はどこか淡々としている。

もう一つ、異なる能力が描かれている。
球体を作って物体を抉ったり消失させてりする能力を「手がとどくもの」と呼び、夢のなかで窓の外にある異世界を見ることができる能力を「窓をひらくもの」と呼ぶ。

「窓をひらくもの」は人数も多く、悪夢のような荒涼とした世界を見ることができるだけの存在である。
それは、死後たどりつくような冷たく孤独な凍りついた世界だ。
この能力を持つ少女は絶望と諦めに負けそうになる。
少女が見た暗黒の世界の向こうに手を振る者とは・・・。
しかし、ここでも南丸はとても自然な言葉で彼女の切実な問いかけに答えている。

一地方に伝わる「七夕の祭り」に隠された驚くべき真相。
南丸の血に潜む謎。
カササギの描かれた旗が示す真実の意味とは。

我々は何処より来たりて、何処へ行くのか。

人類の根源的な問いかけに挑戦した意欲作だと思います。
ネタバレするのであまり書けませんが、岩明均の代表作がまた一つ増えたことは間違いないようです。