北森 鴻 『共犯マジック』

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内容(「BOOK」データベースより)
人の凶兆・不幸のみを予言する、謎の占い書「フォーチュンブック」。読者の連鎖的な自殺を誘発し、回収騒ぎにまで発展したこの本を、松本市のとある書店で偶然入手した、七人の男女。彼らは、運命の黒い糸に搦めとられ、それぞれの犯罪に手を染める。そして知らず知らずのうち、昭和という時代の“共犯者”の役割を演じることに…。錯綜する物語は、やがて、驚愕の最終話へ―!!連作ミステリーの到達点を示す、気鋭・北森鴻の傑作最新長篇。 

北森鴻の連作短編といえば「花の下して春しなむ」や「孔雀狂想曲」などを思い浮かべる人が多いだろう。
本書はそういうタイプの小説ではなかった。連作短編の名手である北森氏の暗闇の面が見えるような、見事ではあるが暗い短編集である。
アクロバティックな展開、「フォーチュンブック」をめぐり深まる謎。
どこからが事実でどこからが創作なのか、北森マジックにかかった読者は、「共犯マジック」という魔法(マジック)の糸に絡め取られたかのように暗い迷路をさ迷う事となる。
不幸のみを予言する「フォーチュンブック」を中心にそれを手に入れた人間、そこにかかわっただけの人間、入手しようとしただけの人間たちが、不幸な出会いや反発、裏切りを繰り返しながら避けることのできない破滅へと向かっていく。あまりの暗さに「もう読まなくていいかな」ともう一人の私が囁いた。

日本が歩んできた明るい光の部分はすっぽり抜け落ちて、暗く絶望的な未解決の犯罪史がたち現れストーリーの要となっていく。次々と出てくる実際に起こった犯罪、(帝銀事件三億円事件、グリコ森永事件など)。
私たちの耳目を集めながら結局、解決を見ることのなかった大事件の数々が、北森氏の筆によって、黒い糸にあやつられるかのように「フォーチュンブック」の持ち主へと終結していく。
列車爆破事件、ホテルニュージャパンの火災。
人間の欲望や偶然の落とし穴が章が進むにつれて関係者たちを結びつけ、救いのないラストへと導いていく。

読後感の悪さに、せっかくのアイデア、トリックがかすんでしまう作品だった。
ミステリというジャンルに収まりきれない、恐怖、悪意、運命。そのようなものを書きたかったのだろうか。各章の唐突な終わり方や、最終章のおきざりにされた感もミステリというには、あまりに中途半端。読者をも巻き込む悪意や怖さという点では、北森氏のねらいは成功しているのかもしれない。

決して面白くないわけではないのだが、あまりお薦めはできない。
初めて北森鴻を読もうという方は、絶対この作品はやめたほうがいい。