若竹七海 『心のなかの冷たい何か』

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内容(「BOOK」データベースより)
失業中のわたしこと若竹七海が旅先で知り合った一ノ瀬妙子。強烈な印象を残した彼女は、不意に電話をよこしてクリスマス・イヴの約束を取りつけたかと思うと、間もなく自殺を図り、植物状態になっているという。悲報に接した折も折、当の妙子から鬼気迫る『手記』が届いた。これは何なのか、彼女の身に何が起こったというのだろう?真相を求めて、体当たりの探偵行が始まる。 

若竹さん2冊目の初心者です。
1冊目の「スクランブル」がよかったので、本書も期待して読みました。

まるでここ2,3年の作品かと思うような出来栄えで(15年前の作品です)若竹さんの先進性に眼を見張りました。
ただ、それだけに読んでいて気分のいい事件ではありません。人間のなかにある冷たい悪意、なんの罪もない人に対する残酷な仕打ちに胸が痛くなりました。
作品に通底する暗さは、「スクランブル」に流れていたきらめきとは反対のものでした。

『自分の行動にも、言葉にも、起きてしまった出来事にも、過ぎ去ったものがみなわたしたちの無力を悟らせるために存在しているのではないか、そんな風に思わせられることがある。』

作中人物のせりふですが、若竹さんの心象風景のようにも思われます。
この暗さ、絶望的な過去への思い、そして事件の終わり方も、なにか釈然としない解決の仕方でした。
それが、ミステリとしての瑕疵になるのか、まだ私には決めかねています。娯楽小説として謎の解明がすっきり胸をすかせてくれるのをファンとしては期待してしまうのですが、この作品については、あえてすっきりさせない結末のほうが納得いってしまうのです。

若竹作品2作目のため、他の作品の雰囲気はわかりませんが、「心のなかの~」はある一つの若竹さんの一面を現す代表的な作品であるような気がします。
バブル絶頂期に書かれた「クリスマスに向けて収束する物語」は、今でも私の心を、ひんやりとした冷たい手で摑まれるような、そんな気分にさせてくれる作品でした。