奥田英朗 『サウスバウンド』

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またまた図書館から嬉しい知らせが。
予約して何ヶ月も待っていた「サウスバウンド」ようやく手に入れました。

二部構成のこの作品は、一部は東京の中野に住む上原一家が様々なトラブルに遭遇したり、自らトラブルを引き起こしたりして都会を離れ沖縄へ脱出するまでを描いています。

元過激派の父と母を持つ上原二郎は、中野区の小学校6年生だ。
心も身体も思春期を迎える時期の子供と青年の間のような不安定なとき。
学校でも校外でも、言いがかりをつけられ、暴力的な中学生や不良の同級生のいじめに会ってしまう。
小学生とはいえ生きる場所はルールの通じないジャングル。
大人や教師に訴える無力さも痛切に感じている。

そんな二郎の悩みをよそに今日も父一郎はパワー全開の変人ぶりを発揮してくれる。
警察や税務署は大嫌い。学校の先生にもイチャモンをつける困った父だが、とにかく地声がとてつもなくデカイので妙な迫力がある。
毎日家にいてゴロゴロしているだけの父は、作家と称しているが本当に小説の出版の話がもちあがった。

第二部では沖縄の西表島に移住した一家が自然の中でたくましく再生し、自然保護や観光開発反対の胡散臭い運動に巻き込まれながらも自由と信念を貫き通していきます。
ユイマールという助け合い、分かち合いの精神で上原一家は、西表島で快適で原始的な暮らしを始めた。
学校なんかろくなことを教えないという父母の意見で、二郎と妹・桃子の二人はジャングルのなかに忘れられていた住居を改装した我が家に移り住んだ。もちろん島に一つしかない小学校には入学手続きもしていない。
電気もない、ローソクやランプの暮らしが始まった。


一部での二郎の友人関係がすごくいいです。
ブロードウェイ(中野のアーケード商店街)をうろついて「まんだらけ」(漫画専門古書店)で立ち読みしたり、自転車にのって銭湯の女湯を覗きにいったり。
大人としか思えないコメントをする向井、小心ものの淳、麻布中志望のリンゾウ。
そして、敵役の黒木もなかなか味なキャラクターです。
変な父を持ったばかりに苦労が絶えない二郎だけど、ご飯を4杯も食べて友人と遊んでいっぱい考えて、感じて大人への階段をずんずんたくましく昇っていく。

沖縄編では父と母は、解放されたように仲良くなり、子供達は忘れられたようになってしまうのですが、二郎も桃子も姉も自由でいて助け合いの精神もある西表の島の暮らしを満喫しているようです。
警察とのトラブルもなにか都会と違ってのんびりして、いいかげんなところも可笑しいところです。

奥田作品の明るく、奔放な部分が花開いた一冊でした。

父、一郎の生き方がだんだん好きになってきますよ。