東野圭吾 『容疑者Xの献身』

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もうさんざんあちこちのブログで取り上げられてしまった本書ですが、遅まきながら読了しました。

直木賞受賞作品とか、二階堂氏のブログで本格か否かの論争が巻き起こった、とか様々な尾ひれがついてやっと読んだわけで、ある意味ミステリの読み方、読まれ方としては不幸な部類に入るのではないでしょうか。

そのせいもあって、読み終わった時の違和感がどうも感動とやらを妨げてしまいました。

以下ネタばれになりますので、反転で書きます。未読のかたはご注意ください。

そもそも、石神が無償の愛のために第二の殺人を犯すところですでに納得いかないんですよね。
愛する女を守るためには罪のない人を犠牲にしていいのか?
靖子たちの殺人はある意味大きな括りで言うところの正当防衛にはいると思いますが、石神の殺人は愛のためといいながら、ものすごいエゴイストの理屈です。

石神にだまされて殺害されてしまったホームレスの「技師」。
路上生活から抜け出す事をまだ、あきらめていない男。
仕事につられて自転車乗り、最後になにもわからぬまま首を絞められてしまう。
なんか、こちらの方が気の毒で泣けてしまいました。

しかし、つまらなかったかと言えばそんなことはなく、引き込まれて一気に読み終えてしまいました。
あまりに評判が良いため、違和感を強調しすぎたかもしれません。

最近の東野さんの作品は、泣かせる話が多く初期の本格推理のころとは傾向が変わってきたようです。
何か、本の表紙や挿絵にもその違いがくっきり現れているようです。
あまり最近の本を熱心に読んでないので以下は、私の誤読による感想かもしれないので違うと思ったら指摘していただくとありがたいです。
それは「秘密」にも感じた女性の描き方です。
「容疑者~」のヒロイン靖子は、衝動的に前夫を殺し、娘も殺害に手を貸しています。
そこへ、石神が現れて一時的にせよ、母娘は救われ大きな恩を受けています。しかし、靖子は石神の好意を知りながらたいして好きでもない男と会ったり、会うことによって男との恋愛に傾いていきます。

そして、娘の自殺未遂さえなければ、石神を犠牲にして結婚を選んでいたのではないのか?
「こうなってしまった以上は、せめて石神の希望とおりに、自分たちが幸せを摑むことを考えるべきなのかもしれなかった。ここでくじければ、彼の苦労は無駄になってしまうのだ。」
自責の念に触れてはいるものの、このメンタリティはちょっと信じられません。
いや、きわめてリアルな反応かもしれませんが、「忘れる女」靖子には違和感がありすぎました。

これほどでもないのですが、「秘密」のラストにも同じような女性像を感じました。


探偵・湯川学については「ガリレオ・シリーズ」というものを初めて知ったので、これからの活躍に期待できるキャラクターだと思います。
聡明でチェスがうまく、偏屈な独身。いいですね、今後が楽しみなシリーズです。