小笠原 慧 『DZ』

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アメリカ・ペンシルベニア州で、夫婦の冷凍死体が発見された。五歳の息子は行方不明のまま、事件は迷宮入りする。一方、日本では、異常な兆候を示す少女がいた。数年後、恋人を亡くし、重度障害児施設に赴任した女医・志度涼子は、保護室に閉じ込められた少女に出会う。そして、運命の歯車は容赦なく回り始めた―。人類という種が背負った哀しい宿命を、壮大なスケールで描いたヒューマン・ミステリ。第二十回横溝正史賞正賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)

小説の舞台は出だしから、ベトナムペンシルベニア州、日本とめまぐるしく変り、話のメインの筋道がなかなか見えてこない。
次々に、アメリカ各地で起きる殺人事件の描写も、関連性がみえないままに途切れてしまう。
実は、このへんで以前つまらなくなって読むのを止めてしまったことがありました。

が、第3章あたりから、ストーリーに流れがでてくるとあとは、面白くて止まらずに最後まで連れて行ってくれる徹夜本でした。

なんといっても面白いのが、人間の種としての進化です。
原題「ホモ・スーペリエンス」(超人類)はこの作品が賞に応募した時のタイトルですが、このホラーSFとでもいうべき小説にとても合ってると思いました。
ベトナムといえば「枯葉剤」による遺伝子の変異で様々な不幸な赤ちゃんが産まれました。

作者はあえて触れてはいませんが、人類の愚考から生まれた新種の生き物。その復讐譚というような読み方もできるのではないでしょうか。

前半で、つながりが分からないエピソードが後半面白いように一つのストーリーにまとまっていくところは、読み応え充分です。

著者が医学博士だそうで、論文や学説について詳しすぎるほど書かれています。素人の読者にどのへんまで理解できるかは、あまり考えないで書いているのででしょうが、まあ、この辺は理解しなくてもストーリーにはついていけるので、著者の薀蓄と言う感じで流して読んでしまいました。

あまりす先生の紹介で知った作者ですが、まだ、掘りつくしていない鉱脈のような気がします。

また、他の作品を読んでみたいと思わせる、力のあるデビュー作品でした。