小路幸也『東京バンドワゴン』

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東京下町、入り組んだ道や曲がった小路、苔むした塀に壁をはらばう蔓草や蔦。

そんな古びた町並みのなかに、「東京バンドワゴン」という一軒の古本屋がある。

去年なくなったおばあちゃん、まだ成仏できずにこの古本屋の家族の中をふわふわしながら語り手となって色々な事件をお話してくれる。

一家の長、勘一は一徹者のがんこ親父。息子の我南人は、金髪の熟年ロッカー。マジメな孫と美人の嫁。プレイボーイの孫、そしてシングルマザーの孫娘一人。ひ孫の花陽と研人。
今時めずらしい大家族が、わいわいがやがやいいながらご飯をたべたり、喧嘩したり。

最後に著者の辞に
「あの頃、たくさんの涙と笑いをお茶の間に届けてくれたテレビドラマへ」
とあるのが、笑ってしまうくらいピッタリで、まさに「寺内貫太郎一家」の古本屋バージョン。

人情にあつい一家のまわりには、それぞれ個性的な、外人さんの画家やら女好きの神主さんやら、古本マニアのIT社長やらが出入りして、ますます賑やかに楽しく話しが進んでいきます。

ちょっとした日常の謎が、探偵役もいないままするすると解きほぐれていき、その先には生き別れの父の悲哀やら、生みの母の深い愛情やらが顔をだします。

続編を書こうと思えばあと10冊は続けられそうな、「男はつらいよ」のような作品でしたね。

幽霊の語り手のおばあちゃん、とても優しくてほほえましい口調です。
この作品の魅力のひとつです。