飯田譲治・梓河人『アナン、』

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東京に初雪が降った夜、高級料亭のゴミ置き場に、生まれたばかりの赤ん坊が捨てられていた。その子を発見したのは、流という名の記憶喪失のホームレスだった。拾われた赤ん坊は「アナン」と名付けられ、流と仲間たちによって育てられる。やがて、アナンの周囲で不思議な現象が次々と起こるようになる―。 

海辺の町に移り住んだアナンは、モザイク製作にその才を発揮し、周囲の人々を驚かせる。彼の作品は美しく、観る者すべてを癒す、神秘的な力を宿していたのだ。アーティストとしての人生を歩み出したアナンが、「未来」という名の扉を開ける―。大きな感動を呼ぶ、スピリチュアル・ファンタジーの最高傑作。 


なんと言うか贅沢な物語を読んだなあ、という感じがしています。
アナンをめぐる人々のなんと暖かで豊かなことでしょう。

何も持たない路上生活者が赤ん坊を育てていく、一見無謀とも不可能ともいうべき行為。
しかし、ホームレス仲間の献身的な手助けによって、アナンはすくすくと成長していきます。
暗黒星雲を背負った女ホームレス「ギリコ」、頭のなかが5歳で成長を止めてしまった「電波青年」、元大会社経営者で今はホームレス社会のドン神宮寺。

ユニークで活き活きとした人物造形、その中でまるで、天上の光が降りたように清らかに輝く赤子のアナン。

物語はアナンの成長とともにホームレスの社会から地方都市へと移っていき、そこでもタイル屋の親子に鬼の現場監督などアナンを見守ってくれる人たちに出会います。

愛と癒しの物語、「アナン、」には、最悪の犯罪者も出てきます。快楽殺人を犯す者、動物を虐待する者。しかし、アナンが美しく才能に溢れているのが天命のように、彼らの描き方その性質は天が与えたもうた物のようです。作者は運命論者なのかもしれません。

「アナザーヘヴン」「NIGHT HEAD」も同じ作者の作品です。

芸術という美を追求する世界、犯罪という悪の世界。二つの世界は鏡のこちらと向こう側のように1つの面をへだてて存在しています。
そして暗い悪の世界にあってもアナンの造るモザイク画はいっそう光を増して輝きます。

ここで芸術家アナンが製作しているモザイクという技法ですが、思い出したのはガウディの作品「サグラダ・ファミリア教会」の尖塔部分、そしてイスラム建築でした。
本書の中で、素晴らしい表現で語られるモザイク画の世界。
ガウディとモスクの画像で少し想像しやすくなるのではないかと思います。

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物語はアナンの持つ不思議な力が徐々にあきらかになるにつれて、大きなうねりのように色々な分からなかった過去や、過ちが収束して解き明かされていきます。

そして、アナンの才能が花開きアナン自身のものとして自覚されたとき、雪の中の感動的なシーンへと連なっていくのです。

強く心に訴える力をもった作品です。
なんとなく最近さえない日が続くという方、「アナン、」を手にとってみてください。