本のタイトルリレー・美酒とミステリ

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え~、本楽家協会の活動が始まり、私のところにもお題が廻ってまいりました。

その名も『本のタイトルリレー』

まずはルール説明。
お題として受け取った本のタイトルの一部(単語、品詞)、あるいは全部を含んだ別の本を次の人が紹介する。
つまり、前の人の挙げたタイトルが「罪と罰」だったら、「罪」か、「罰」、苦肉の策として「と」(?!)の含まれたタイトルを探して回答とし、次の人に回す、ということです。

cuttyさんから廻ってきた本のタイトルは『麦酒の家の冒険』でした。

これはcuttyさんに敬意を表して「酒」を選ぶしかないでしょう(笑)ということで、自分のブログの過去記事を見てみたら2つもありました(汗)。


でもこれって、新鮮味に欠けないか?と、自問自答して色々探してみたところ、ありました。ちょっと長いタイトルもあとの人に親切だし、ちゃんと小説であるところも気に入りました。別に小説限定ではないのでしょうが、ここはミステリで行きたいなと思ったのです^^。

そこで、ご紹介するのは『ワイン通の復讐-美酒にまつわるミステリー選集-』と言う本になりました。

収録作品は以下のとおりです。
ワイン通の復讐 (ロアルド・ダール)
アモンティリャードの樽 (エドガー・アラン・ポー)
マーマレードワイン (ジョーン・エイケン)
宴の前に (サマセット・モーム)
所得税の謎 (マイケル・ギルバート)
アブサンのボトルをめぐって (W・C・モロー)
未亡人に乾杯 (クリスチアナ・ブランド)
失踪 (E・C・ベントリー)
ハイボールの罠 (クレイグ・ライス)
競売前夜 (ジョルジュ・シムノン)
ワイン探偵ベリング (ローレンス・G・ブロックマン)
最後の一瓶 (スタンリー・エリン)

ピーター・ヘイニング編のアンソロジーで、一癖も二癖もある作家が集まって、酒にまつわるミステリを堪能させてくれる贅沢な一冊です。
ダールの「ワイン通の復讐」は『あなたに似た人』に「味」という異なったタイトルで収められていますので、お読みになった方は多いかもしれません。
私が印象に残った作品は「ワイン通の復讐」「アモンティリャードの樽」「最後の一瓶」です。
ただ、なかなか個性的で味わいの異なった作品集ですから、読み手によってお気に入りが、全然違ってくることもあると思います。

「アモンティリャードの樽」はポーのホラーに近い作品です。
横柄きわまりないワイン鑑定家フォルチュナートと、彼にさんざん傷付けられ、愚弄されてきたワイン通のモントレゾル。
イタリアのカーニバルの夜、モントレゾルはフォルチュナートを自宅の酒蔵へ案内して、比類ないアモンティリャードの樽を手に入れたが試飲して本物かどうか鑑定してほしいともちかける。いささか飲みすぎているフォルチュナートはご機嫌で、モントレゾル家の地下墓地へと連れ込まれてしまう。

19世紀イタリアのカタコンベと陽気なカーニバルを引きずったフォルチュナートの装いが不気味な対比を示し、陰惨な復讐劇の幕が開かれます。

「最後の一瓶」はワイン愛好家の嫉妬と狂気を描いて秀逸でした。
絶品中の絶品、伝説の銘柄「ニュイ・サン・トアン1929年物」のワイン。それを所有するワイン販売業の主人公と、ワインにとり憑かれた大富豪、ワイン雑誌の編集者たちの執念が火花を散らす。そして、富豪の執念に主人公は負け、ワインを売ることにする。そのワインは結婚記念日に開けられることとなった。
3日間テーブルの上に立てて置かれ、完全に澱が沈んだワインを、富豪はそっと取り上げ細心の注意をはらってコルクを抜く。この時不用意にボトルを揺らすと澱が浮きあがり台無しになってしまうのだ。息を詰めて、作業を見守る愛好家たち。
完璧にコルクは抜かれ、熟成したワインが何十年ぶりかで新鮮な空気に触れる。
さて、このワインがどうなるのか。読んでからのお楽しみですね。
「ワイン通の復讐」は長口上のワインの味を表現するシーンが有名な作品です。
有名なグルメでワイン通のリチャード・プラットは招待先の主人と賭けをした。これから供するクラレットの銘柄をあてられるか。
ほぼ全編ワインの味わいについて述べられているなんともグルメな作品である。
「分別のあるワインですよ」
「どちらかといえば、遠慮がちで逃げ腰だが、じつに分別がある」
「ユーモアを解するワインだ。情けもありほがらかで、まあ、やや卑屈なところがなくもない」
こんな擬人化したワインの表現が面白い。
「うむ、そうだ。非常におもしろい小柄なワインだ。優しく優雅で、後味は女性的と言っていい」
こんな台詞を言いながら核心にせまっていく。
自身も大変なワイン好きだったロアルド・ダールの傑作短編ですね。

ところで、この本を読みながらある海外ドラマが思い出されてなりませんでした。
刑事コロンボ 別れのワイン」です。
あの古畑任三郎の原型のような素晴らしく面白いTV番組でしたが、その中でも最高傑作と言われている作品です。

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1974年(昭和49年)6月29日放送されたこの作品は、ワイン醸造会社の経営者エイドリアンドナルド・プレザンス)とコロンボの対決が描かれています。
生涯を懸けてワイン造りとワインの鑑定をやってきたエイドリアンは、遊び人の弟が会社を売るという一言に逆上して思わず殴り倒してしまった。会社を守るため彼は自分のワイン蔵に弟を運び、空調を切って窒息死させる。その後スキューバダイビングに行くと言っていた弟の遺体を海に捨て、事故に見せかけた。
しかし、コロンボはささいなことから推理して、エイドリアンの犯行であることを確信する。
物証はほとんどない難事件。しかし、1本のワイン「フェリエー・ヴィンテージ・ポルト45年もの」が鍵となりエイドリアンを追い詰める。

ドナルド・プレザンスの名演技が光る、なんともドラマチックな作品でした。ワインを見る彼の眼。まるで子供のようなきらきらした青い瞳。(あ、オヤジです。美青年を想像しないでください)そして、コロンボとのやりとりも、なかなか感動的でした。
名台詞
「刑務所は結婚より自由かもしれない」
「モンテフェスコーネ、最高のデザートワインです。別れの宴にもっともふさわしい。」
「よく勉強されましたな」

シリーズ中、コロンボがこれほど犯人に敬意を見せるのはこの作品以外ないのではないでしょうか。
微妙な味わいを嗅ぎ分けるエイドリアンの驚くべき繊細な舌。
皮肉な結末でしたね。

蛇足ですが、このドラマの中にコロンボが「ワイン蔵に閉じ込められる話、なんと言いましたっけ?ポーの、ア・・ア・・」というとエイドリアンが
「アモンティリャードの樽でしょう」とすかさず答えるシーンがあってビックリしました。


さて、酒といってもワインが中心の酒談義でしたが、ミステリに登場する酒や料理は、本当に魅力的です。実際に飲めないのが玉に瑕ですが、自室でワイン片手に楽しむのもけっこうな夜の過ごしかたかもしれません。私などは飲みすぎて次の日どこまで読んだかわからなくなってしまったりもするのですが・・・。(苦笑)

次回のお題「ワイン通の復讐-美酒にまつわるミステリー選集-」となりました。
「ワイン」「通」「復讐」「美」「酒」「まつわる」「ミステリ」「選集」とよりどりみどりでございます(笑)