高嶋哲夫 『TSUNAMI -津波-』

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来る来ると言われ続けて、ぜんぜん来ない東海大地震ですが阪神淡路大震災の記憶も薄れた最近では
、もう防災意識も同じように薄れ始めているのではないでしょうか。

「M8」の続編である本書は、東海、東南海、南海大地震が発生した日本の最悪のシナリオを描いた、自然災害ドラマです。

阪神大震災で心に深い傷を負った男女たち。
彼らは、それぞれ地震の予知研究、政府の防災担当者になって活躍していた。

平成大震災で東京は壊滅的な被害を負ったが、都知事漆原の決断で最悪の事態は避けることができた。(M8) 

本書はこの「M8」から復興し始めた日本に再び、大震災がもたらされるという続編です。
日本の太平洋側一帯に、恐ろしい災害が襲い掛かります。

しかし、作者の筆は災害やそこに巻き込まれた人々の描写より、その災害に備える立場の人間に焦点をあてて描き出していきます。
政府の要職に在る総理始め大臣達、予知の研究者、自治体の防災担当、原発の保守担当、あげれば限がないけれどいずれも防災を真剣に考えてほしい立場の人ばかりです。

防災と経済活動のどちらを優先するか、政府、経済界、一般市民。

警戒宣言を発動する決断の難しさ、発動しても地震がなかなかおきなかった時どのくらい警戒を維持するのか。
責任はだれがとるのか。

著者は阪神淡路大震災を経験したそうです。

この小説が、被災者に焦点をあてるより、防災に向けて問題を投げかけているのは、たぶん、被災した人々の衝撃、悲しみ、困窮は筆舌に尽くしがたいということを身をもって経験したからではないでしょうか。

無機的な死傷者の数字だけが、どんどん対策本部に入ってくる恐ろしさ。

政治家の決断、それぞれ部署を担当する人達の描き方が、理想にすぎると思いましたが、各防災担当の方たちには是非読んでほしい作品でした。