久坂部 羊『破裂』

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「廃用身」で衝撃的なデビューをした久坂部羊の第2作です。

自らも医療ミスの被害者であった松野は、ノンフィクション作家として世に出るきっかけを探していた。

彼の前に一人の麻酔科医師江崎があらわれた。江崎は「痛恨の症例」という医療過誤の現実を自分で取材してたが、同期の友人を通して松野に紹介された。

彼の集めた医師たちの告白テープは衝撃的だった。

正義感と功名心に駆られて松野は、江崎の取材と自分の取材をあわせ、医療過誤についての加害者、被害者両方からのルポを書き始める。

一方、厚生省のマキャベリと呼ばれている佐久間は密かにある計画を立ち上げていた。

医療費の野放図な伸びと、年金問題を一挙に解決する安楽死に関する計画である。 


ミステリとして読むとかなり、強引な展開や殺人犯の正体が明かされないなど不満な点もありますが、医療過誤と老人問題をからめて、息吐く間もないストーリーが展開されます。著者は現役の医師だということですが、現場を知ってる専門家ならではのエピソードがちりばめられ、飽きることなく著者の描く世界に入って行けました。

手術が下手な外科医、ミスを繰り返すリピーター医師、無責任な体制、様々な問題がある「白い巨塔」のタブー。

あまりすさんのブログで「エンブリオ」が紹介されてましたが、命の発生と医療のかかわりを描いた小説のようです。
こちらは、命をどのように終わらせるか、終末医療のありかたに疑問を投げかけているお話でもあります。

巨悪として描かれる佐久間、正義感から突っ走る松野、尊大な外科医、香村、そして、医師でありながら同僚の過失を告発する江崎。

しかし作者は後半、これらの人々を多面的に書いています。果たして悪は悪なのか、正義は本当に正義なのか。

ミスを犯した医師を責めるのは簡単だけど、日本の権力システムはマスコミや政治でも、一般の人々にとっても無責任な社会をつくりあげていないのか。

重いテーマで考えさせられました。