西澤保彦 『彼女が死んだ夜』匠千暁第一の事件

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実は私、かなりの西澤ファンなのです。


しかし今まで何故か一冊の紹介もしていませんでした。この作家の魅力って、人に伝えづらいところがあるのです。長編をかいても「大作」って感じはしないし、作風も軽いと思って読んでいると突然ズンと落とされたり。
油断のならない作家なのです。

さて、ストーリーは四国の地方都市にある国立安槻大学に通う女子大生ハコちゃんの災難から始まります。コンパで気持ちよく酔って帰宅した彼女の前に、見ず知らずの女性の死体が転がっていた。
 110番に連絡しようと思った彼女の手は、次の日から始まるアメリカ留学のことが頭をよぎったそのとき、止まってしまった。厳格な両親がこんな事件が起きた直後に留学なんてとんでもない、と中止されるのは眼に見えている。

死ぬほど楽しみにしていた海外旅行・・。彼女は大学の友人に助けをもとめた。 

身勝手なハコちゃんの頼みに振り回されながら、匠千暁とボアン先輩は死体移動の片棒をかつがされる。
次の日公園で発見された女性の死体は新聞トップの大事件に発展してしまった。
殺人現場を勝手に移してしまったタックに、「あんたが責任とって解決しなさい」とタカチの厳しい一言が。

事件は友人宮下の失踪をからめて、思わぬ方向へ発展していく。 


大学の仲間たちが、居酒屋で、ボアン先輩の下宿で、酒を飲みながら推理を進めていくという形式のミステリ第一作といったところでしょうか。
とにかく、語り手のタックをはじめ、タカチ、ウサコ、ガンタ、ボアン先輩の飲むこと飲むこと。
タックの推理も、ジャッキー・チェン酔拳のごとく呑むほどに冴え渡る。といっても、けっこう妄想に近い推理なのにあとで、真相に近いことが分かりました、みたいな、いいかげんなところもあるのでこの辺は人によって好き嫌いが分かれるところかも知れませんね。

青春真っ只中の(いやな言葉だなあ(笑))タックたちがたどり着いた真相は決してさわやかでも、爽快でもない重い結末でした。

西澤作品をお読みになるのでしたら本書は外せない一冊です。謎の提示も引き付けられますし、登場人物も魅力的です。そして、最後の最後まで作者のしかけた罠にはまるのも、西澤推理の楽しさですね。