「果てしなき旅路」と「常野物語」

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 以前、恩田陸の「光の帝国 常野物語」を読んだ時「あ、これピープルだ!」と叫んでしまいました。

後書きで彼女も書いている通り、「常野~」はゼナ・ヘンダースンの「ピープルシリーズ」へのオマージ

ュであるようです。結構「常野物語」を読まれていいなあと思っている方多いんではないかと、こちらも

是非紹介したい作品です。


 母星が消滅し、恒星間宇宙船で脱出した「同胞」、地球に辿りつくが着陸時の大事故により「同胞」は

各地に墜落し散り散りになってしまう。小さなコロニーを作りひっそりと暮らす異星人たちは、それぞれ

超能力のような不思議な力を持っていた。

 互いに連絡を取るすべもなく、地球人から隠れるように暮らす人々が思わぬ出会いから「同胞」とめぐ

り合っていく。一族の記憶を共有し、心を読む能力、病気や心の病まで癒す人々が異端として地域から孤

立しながらも少数の地球人たちと理解しあい心温まる交流が始まる。


 異星人ものとはいえ派手な戦いや謎解きはなく、淡々と静かに語られるエピソードばかりです。著者が

教職にあったせいか学校や子供たちがかかわる物語が多く片田舎の学校の雰囲気がよく伝わってきます。

物を動かしたり空を飛んだり目に見える超能力も描かれていますが、この作品の魅力は心を癒す能力を繊

細な筆致で表現しているところでしょう。

 一番心に残った短編はフランチャー・キッドという音楽を奏でる少年のエピソードでした。美しく、豊

かな音楽と思春期に入った少年の苛立ちや孤独が痛いほど胸にしみるお話です。


本作と「血は異ならず」が早川文庫SFより出版されています。

お勧め度★★★★☆