恒川光太郎「夜市」を読んで
この世と接する異界に迷い込んだ男女の物語です。
彼氏につれられて「夜市」と呼ばれる異世界に迷い込んだいずみは、化け物や妖怪が店をだす静かな市か
ら帰れなくなってしまったことに気づく。お祭りの屋台のようでいて、ひっそりと無音の森の中をどこま
でも青白い光りが続き店が並ぶ永遠に終わらない夜の市。
び上がるようなイメージ豊かな文章でこの世ならぬ不思議な冥界めぐりを鮮やかに描き出します。ホラー
小説好きの私ですが、この小説から受けた印象は神隠し民話というのが一番近いでしょうか。迷いつづけ
る迷路の中の人々の悲しみ、孤独、外の世界へ帰った時のとまどい。同時収録の「風の古道」も同じよう
に分岐し続けるこの世の外の道をさまようお話です。
この中編のなかばで「ふんふん、なるほど」と展開が見えたと思った私ですが、作者の仕掛けはさらに
深かったです。「え、そうなるわけ?」と言う感じでみごとにやられました。
読み終わって上質な文学作品を味わった、充実した時間を過ごしたと思える作品です。
作中に出てくる独特な言葉「永久放浪者」「学校蝙蝠」などが異世界のディテールをうまく表現してい
ました。
お勧め度★★★☆