(6)Mr.MHG LAST HUNT

第六章 水城レイバーンへ



 ミナガルデ自由区はフェンリル王国の南に位置する、飛龍特別区である。大陸全土に広く生息する飛龍

だが、特にミナガルデ周辺は飛龍の繁殖地として知られている。そこはハンターズギルドと呼ばれる組織

の管理下に置かれ、フェンリル王国の特別自治区として王国から半独立した地方として有名だ。

 だが、ここ数年の間におきたシュレイド黒龍襲撃事件や紅龍戦役の禍禍しい出来事により、王国とギル

ドの間にギクシャクとしたものが生まれていた。


 爽やかな秋の日差しの中、リュウヤはフェンリルの王都アンスラクスへと急いでいた。密かにギルド・

マスターの命を受け、女王のもとへ派遣されたのである。リュウヤの婚約者、マリアンが女王の侍女とし

て仕えている。表向きは、そのマリアンに会いに行くということになっていた。

「お、あれが王都アンスラクスだな。」

 リュウヤは汗を拭きながら荷物を背負いなおした。

 きらびやかな建物の屋根が太陽を反射して輝いている。その屋根の向こうには白亜の城の塔がかい間見

られる。王城である。

 澄みきった水をたたえた湖に浮かぶ水城レイバーン、女王ロクサーヌⅡ世の居城。広大なフェンリル

国の中枢である。

 王都アンスラクスに入ると人波に揉まれるようにリュウヤは城の方へ進んで行った。道端に軒を連ねる

露天商の商品は皆、見なれぬ異国の香りがした。ゴミゴミした下町から次第に街並みは上流階級が住むき

らびやかな家々へと変化していき、湖の廻りは美しい森の中に点在する華麗な邸宅が王家の重臣たちの権

威を示していた。ギルド発行の通行手形がなければ、普通の市民はとても立ち入ることの出来ない場所で

ある。

「おお・・・、あれが水城レイバーン!」

 リュウヤの目の前には、神秘的な湖に浮かぶ城がその全貌をあらわしていた。

「なんて綺麗な城なんだ・・・」
 
 息を呑むように美しい白亜の城、流麗なアーチによって支えられた下層部と空に突き出すように聳え立

つ無数の塔が形作る上層部が、繊細で華麗な印象を与えている。真っ白な大理石の道が湖の上に架けられ

て城のアーチへと続いていた。

 警備の兵士に通行手形を見せ城内にはいると、マリアンが待っていてくれた。

リュウヤ!会いたかったあ!」

 真っ白いふわふわしたかたまりが、いきなり飛びついてきた。

「マ、マリアン?!」

 あわてて目の前のかたまりを引き離すと、白ウサギの耳を付け白い毛皮の縁取りのついた衣装を着た婚

約者の顔がそこにあった。

「そ、そのかっこうは・・・!!!」

「え?これ?侍女の制服だけど・・。なによ!リュウヤったら、やっと会えたのにそんなヘンな顔しちゃ

って!」

 マリアンはプッと頬をふくらませて拗ねてしまった。

「ごめん、ごめん、いや、ちょっとビックリしたんだよ。君が、え~と、あんまり綺麗になっちゃってた

から・・」

「ほんと?!うれしいっ!」

 白ウサギを抱っこしている気分になって、リュウヤはマリアンのふわふわした背中を撫でた。 落ち着

いてあたりを見まわすと、宮廷風の衣装というよりはお伽の国の登場人物のような人々が行き交っている

ではないか。

「どうなってるんだ、この城は・・・?!」

 リュウヤはとまどいながら、ピンクの鎧をつけた近衛兵やらふわふわの耳と尻尾をくっつけて忙しそう

に行き交う侍女たちを眺めた。

「マリアン、女王様がお待ちです、この方をご案内しておあげなさい。」

 年嵩の黒いドレスを着た女性が近づいて来て、マリアンに話しかけた。やっとマトモな服を着た人がい

る、そう思ってリュウヤがほっとするのも束の間だった。くるりと背中を向けた女性の背には黒いシフォ

ンでできた羽根が付いていた。

「マリアン、そ、その・・・服のことなんだけど・・。このお城ってみんながそういう格好してるのか

い?」

「え?この服のこと?」

 リュウヤを見上げるマリアンの子犬のように無邪気な表情を見ると

「いや、いいんだ。かわいいし良く似合ってるよ」

 としか言う事ができないリュウヤであった。

「ありがと!こっちよ、女王様に紹介してあげる!」

リュウヤの手を取って歩き出す婚約者のお尻にも、耳とおそろいの真っ白なシッポが揺れていた。

『頭いてえ・・・』リュウヤは城に来たことを早くも後悔していた。