癒される「園芸家12ヶ月」チャペック

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チェコが生んだ偉大な作家カレル・チャペック、彼は無類の園芸好きでした。園芸熱が嵩じて、書き上げ

たのがこの素晴らしく暖かい「園芸家12ヶ月」です。

 チャペックについては「ロボット」という言葉を創作した作家であるとか、「山椒魚戦争」という風刺

SFの作者であるとか、どうしてもSFや童話作家としてのイメージが強いようです。しかし、彼の作品

で私が一番感動したのが、この園芸についてのなんともユーモラスで暖かい12のお話でした。

 各章は1月から12月まで12に分かれており、それぞれの月に園芸家は何をなすべきか、が中心とな

って書かれています。こう書くとまるで園芸ガイドブックのようですが、(確かに十分ガイドブックとし

て使えますがw)さすがチャペックの筆は、園芸家が庭でいかに戦うかをユーモアたっぷりに描きだしま

す。そう、園芸は年寄りの穏やかな趣味ではなかったのです。園芸は戦いでした。


 園芸家たちは土を掘り、腐葉土やピートなどを混ぜ込んでふかふかにし、花を咲かせるために肥料を調

達(あこがれは、ほかほかの牛糞)し、さらに混ぜ込む。水撒きホースと格闘し、己の脚の置き場に困

り、軽業師のような姿勢で花壇の苗を踏まないように作業する。そして、花壇に植えるべき植物の種を発

注する。この時、カタログを眺める園芸家の庭は果てしなく広がっている。


 やがて、とうてい植えることが出来ない量の種がぞくぞくと園芸家のもとに届けられる。


チャペック自身の体験談が豊富に含まれていると思われますが・・。園芸家は庭を這いまわり草をとり

ます。完璧を求めて苗を手にしながら苦悩に胸をかきむしったり、果ては苦労して咲かせた花壇には目も

くれず土壌改良に意欲を燃やします。そして、冬が来て彼は初めてこの間、一度も花壇を眺めたことが無

いことに気づくのです。


ディープな園芸家でなくても知っていることですが、庭造りというのは早い話が土造りなのです。だか

ら、園芸家同士が相手の庭をほめる時「なんてきれいな花なんでしょう!」とは言いません。「なんてす

てきな土なんだ。」これが、正しい誉め方なのです。


この本の挿絵は、兄のヨーゼフ・チャペックの手によるもので、ユーモラスで暖かい描線はこの作品に

ピッタリです。


お薦め度★★★★☆