「ファンタージエン秘密の図書館」を読んで

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 ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」の続編です。

 といっても作者はエンデの愛弟子ラルフ・イーザウで、「はてしない物語」を題材にした連作の第一弾

らしいです。かなり無謀な試みじゃない?と思って読み始めましたが、読後の印象としてはなかなか面白

かったというのが正直な感想ですね。

 エンデのオリジナルの世界を借りてイーザウが自由に遊ばせてもらっている、そんな感じです。ストー

リーは続編と言うより、はてしない物語より以前の時空列で語られています。読んだかたなら「ああ、古

本屋のおじいさんね!」と思い出すでしょうが、そのおじいさんの若かりし日の冒険譚であります。

 時は1937年、ナチスが台頭して巷では焚書騒ぎがあちこちで起きている、そんな時代。職を失った

カール・コレアート・コリアンダー青年は、古本屋の「店員兼経営者を求む」の張り紙を見て店に入って

行きます。そう、あのバスチアンが逃げ込んだ古本屋さんです。

 そこは人間界とファンタージエンを結ぶ通路の一つだったのです。カールは本屋の主人トルッツ氏と

共に、ファンタージエン図書館から消えてゆく本の探索に旅立っていきます。

 幼心の君もちゃんと存在している世界は、この時も破滅の危機に瀕していました。最初は気が弱く、優

柔不断でたよりなかったカール青年が、ファンタージエンのためにいやいや立ち上がり困難を乗り越えて

いくうちに、一人前の勇敢な青年に変貌していきます。

 光と闇、善と悪などの二元論的な世界観、貴重な本(言葉、概念)が失われたあとに出現する灰色の

虚無、様々なメタファーがちりばめられています。が、エンデの作品ほど、哲学的ではなく解かりやすく

楽しめる内容となっています。

 「はてしない物語」は、ある意味閉じた世界、完結した物語です。深い奥行きを持ち、何度も読み返せ

る複雑な構成、哲学的な内容ですが、きっちりと完結した結晶のような本でした。イーザウは、その美し

い世界を借りて住み始めた住人です。エンデの創り上げたファンタージエンの中には、無数の語られなか

った物語が詰め込まれていました。

「けれどもこれは別の物語、いつかまた、別のときにはなすことにしよう。」

 こう書かれて、おしまいになっていた物語の一つが、「ファンタージエン秘密の図書館」なのかもしれ

ません。


お薦め度★★★★☆