下川博 『弩』

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内容紹介(amazonより)
「読み始めた途端、これは傑作である、と確信する小説が時にある。そしてそれは多くの場合、裏切られない。こういう小説は年に一作しかない、ことは書いておく必要があるだろう。2009年はこれだ。」【北上次郎氏(文芸評論家)・読売新聞6月14日付より】。

家族を、そして村を豊かにするために、わったい(因幡方言=規格外の自由人)に道を切り拓いていく因幡の百姓・吾輔の生きざまを、悪党との戦いを交え描いた時代小説。映画「七人の侍」の舞台(1586年)から遡ること240年、南北朝時代の動乱期を生き抜く、強くたくましい民衆像が明らかになる。青い目の侍や農民、日本ではなじみの浅い武器、この本のタイトルにもなっている弩(クロスボー)が活躍したりと、驚きの設定だが、それもまた、日本の史実なのだ。

時代ものをまったくといっていいほど読まない私ですが、上記の北上先生の言葉にあおられて、さっそく予約。先日やっと入手いたしました。

惜しくも2009年中には読めなかったものの、楽しめるエンターテイメントでした。
因幡の百姓・吾輔を中心に、村の発展と危機にあたって驚くべき行動力と知恵で生き抜く人達が、活き活きと描かれます。中世、戦国時代の百姓という弱くて貧しいイメージが、がらがらと崩れ、人間臭くてたくましく、男も女もそれぞれが個性に満ちた表情で現れてきます。
北上先生の言葉ほどではないにせよ、歴史に消えていった数々の名もない英雄の姿を活写した手腕はお見事でした。ただ、その終焉はなかなかに哀しく無情なもので、その一人がお気に入りのキャラだっただけに残念です。
作者は金沢文庫の資料から、この物語をふくらませたようです。作家の想像力と史実の重みが太い背骨になってこの物語に説得力を与えています。