桜庭一樹 『赤朽葉家の伝説』

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出版社 / 著者からの内容紹介
「山の民」に置き去られた赤ん坊。この子は村の若夫婦に引き取られ、のちには製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれて輿入れし、赤朽葉家の「千里眼奥様」と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。――千里眼の祖母、漫画家の母、そしてニートのわたし。高度経済成長、バブル崩壊を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる3代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の血脈を比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編。2006年を締め括る著者の新たなる代表作、桜庭一樹はここまで凄かった! 


いろいろなブログで評判だったこの本。やっと読むことができました。
記念すべき桜庭一樹、一冊目は「赤朽葉家の伝説」です。

大変面白い、女三代にわたる年代記でしたが、いかんせんボリュームが不足しているように感じてしまいました。最低でも上下巻2冊以上の内容ではないかと思います。

山の民の子供、万葉。
彼女の幼年期から少女期にわたる心躍るストーリーは、魔法と予感に満ちてとても魅力的でした。(このあたりも、もっと書き込んでほしかった。)
途中からは駆け足になってしまい、文章も説明調が多くなって、なにか粗筋を読まされているような箇所が所々出てきたのが気になります。
と、不満を述べてみたのも、この作品の見事なところに惹かれたからではあります。

初代大奥様のタツ千里眼奥様の万葉、レディーズの頭で、売れっ子マンガ家の毛鞠。
山奥というイメージのある山陰地方の鳥取県。そこを舞台に製鉄業の一族の時代とのかかわりを、万葉の記憶を辿るように語られていきます。
赤朽葉家の威容を誇る大屋敷。製鉄の街に生きる職人。職工。
赤朽葉家とは対極にある造船業の黒菱家。その跡取り娘の出目金。

鮮やかなイメージで、紡ぎあげる織物のような世界です。
あー、もっと突っ込んで書いてくれ!
そう言いたい箇所はいくつもありました。

鞄や孤独のストーリーは、やや通り一辺であり、時代に流されていく若者たちの瞳の色などの描き方には感心しながらも、もうちょっと個々のあり様は違っていたのでは、などと反発を覚えなくもなかったですね。
花のあすか組!」を思わせる「あいあん天使(エンジェル)」の登場も、やや唐突な感じ。

あまりにも現実離れした登場人物たちで、共感というよりは感嘆という思いが強かった。

読みながら「これは、当たりじゃ~!」と感じ、引き込まれていきました。

空飛ぶ隻眼の男、首がぽーんと飛んでいく老人、産み落とすさいに幻視した赤子の生涯など、こたえられない豊かなイメージの奔流、不思議の予感に満ちた第一部でした。
とにかく、この第一部は素晴らしいです。
山の民という幻のような人達、たたら製鉄の伝承者であり、自殺した死者を弔う謎の集団でもあります。
万葉の未来を見たり、遠くの出来事を幻視したりする能力は、この一族から受継がれたものなのでしょう。

作者はライトノベル出身らしいですが、堂々とした構成の本書は口当たりはソフトですが、一筋縄ではいかない奇妙な後味を残す小説でした。

この作者、ネーミングセンスが独特で、擬音が面白い。
万葉などはまともな方で、鞄(カバン)、孤独(こどく)など、名前とは思えないぶっ飛んだセンスです。
バイクで暴走する毛毬、その様子を「ぱらりらぱらりら」と表現するあたり、曲者です(笑)

こういう個性的な作品に出会うと、また読書の地平が広がったようで嬉しくなってきます。
独特の色調を帯びた桜庭作品、これからも追っかけていきたいと思わせるものでした。