端倪すべからざる芸術家タンギー

年末のクソ忙しい時にダジャレかよ!と突っ込んだそこのアナタ。

タンギーという画家の不思議な世界をご紹介しましょう。

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彼がイヴ・タンギーです。(1900~1955)
アンドレ・ブルトンをして、「シュルレアリスムの画家のなかで最もシュルレエルな画家」と言わしめた男です。

この完全な独学の画家は、ある日バスに乗っているときに見かけたジュルジュ・デ・キリコの作品に衝撃を受け、それまでの無為な日々からアーティストの道へと飛び込んでいった異色の経歴を持っています。
彼の周りにはシュルレアリスムの運動家たちがひしめきあうように、たむろっていました。
一例をあげれば、アラゴンブルトンデスノスなど。
この最初のころの作品はタンギー自身が、ある時燃やしてしまったため現存するのはごく僅かという悲劇があります。
それでも、いくつかの作品が難を逃れて、今、私たちの目の前に残されています。
ここで、まるで生涯をかけて異世界の進化を体現したかのような、タンギーの生涯の活動を振り返ってみたいと思います。

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眠る女 1926年

まだ稚拙な技量しか持たなかったタンギーですが、後に頻出する荒涼とした空間のイメージがすでにこの作品にも見られます。

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泉の見取り図 1929年

'29年ころになってくると、タンギーの表現力と内面が一致して作品の質も、その特殊性も顕著になってきます。
原初の海底か、いずこかの星の大気中か、まるで生命の始まりのような姿をした奇妙な浮遊物体が点在する無気味な光景が広がっています。彼はこれを「バイオモルフィスム」と名付ました。「生物形態主義」などと訳されています。

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聾の耳  1938年

30年代に入るまで、原生生物が浮遊するような光景を描き続けたタンギーの画風に変化が現れます。まるで、進化の時を迎えたように、広い空間に点在していた生物は少しずつ集まり、コロニーを作り、そこでは何か文明の萌芽さえ感じさせるのです。

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遅滞の日々

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無題 1936年
ジョー・プスケに 1936年

無彩色の荒涼とした海底の世界から、可笑しな形態を持つ生物がもこもこと湧き出てくるようです。

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四つの翼、あるいはシルヴィアの歓び 1949年

このころ’49年になると可愛らしかったコロニーは、堂々たる建造物のような巨大な風体を形作ってきます。とくにこの作品などは、過剰さと次に来る『崩壊』の予感まで孕んでいるような無気味さが漂っています。

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今朝 1951年

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駆り立てられた空 1951年

建造物はまた増殖をして都市のような形態になっていきます。まるで乾いた骨を寄せ集めたような「死」の予感に満ちた作品群です。
画家自身の死の4年前ということもあり、タンギーにはそのような予感めいた自覚がでてきたのかも知れません。

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細腰 1945年

まったくエロティックな作風を持たないタンギーですが、このような先細の尖った形態は、もしかするとこの不可解な世界の住人の生殖の象徴なのかも知れません。

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想像上の数 1954年

死の前年に描かれたこの作品。
ついに爆発的に増殖を始めた「バイオモルフィスム」は、終末に至る危機的な様相を帯びてきます。
漂白され乾いた物体は生命の名残はあるものの、静かな固いかけらの寄せ集めのように見えてきます。
タンギーが生涯を掛けて描きつづけた奇妙な生物の進化と、滅亡がこの1枚に集約されたような絵です。

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Indefinite Divisibility 1942年

最後にタンギーが描いた見事な異世界の様相をUPいたします。
この絵画の歴史のなかでも不思議な位置を占めるタンギーの、想像力が豊かに羽ばたいた作品だと思います。

最後はアメリカに渡り、市民権も得たタンギーですが、彼の心の中は、ずっとどこかの異なる天体に生きた異形の生命体の進化を見つめ続けていたのです。
生涯を掛けて進化を描いた画家。
まさに神から降りたインスピレーションを愚直に求め続けた芸術家だったのでしょう。