中西 智明 『消失!』

内容(「BOOK」データベースより)
その街に連続して起こった殺害事件。共通するのは死体と犯人の不可解な「消失!」。そして、殺されたのがいずれも赤毛の持主であったことだ。赤毛を恨む人間の復讐行なのか。最初の「驚愕」は、名探偵新寺仁が解き明きした真相にある。だが、その奥には二重三重の途方もない真実が…。22歳作家鮮烈デビュー。 


「オレが・・・オレが殺したのか?オレが?」
「こいつが赤毛だから、殺すのだ。」
犯人の独白から始まるこのミステリ。
ヤラレタ!これが素直な感想である。
この手の犯人のモノローグが小説の各所に差し挟まれるミステリは、折原一などで体験済の私であるが、警戒しながら読んでいたにもかかわらず、ヤラレテしまったのである。

ミステリ・マニアの書いた、ミステリ・マニアのための傑作ミステリ。新本格がお好きな方なら絶対楽しくヤラレタ~と叫んでくれるはず。
マニア向けだからといっても、トリックはいたってシンプル。
誰でも、素直に驚愕していただける親切設計である。
でも、この作品に東野さんのようなドラマや深みを求めてはならない。純粋に殺しとその犯人、真相を楽しめる方だけに読んでもらいたい作品である。

驚愕の真相はいくつも用意されている。
三つの死。赤毛ばかりを狙った無差別の殺し。マリー、裕二、純。
犯人の意図は何なのだろうか。
クリスティの「ABC殺人事件」的なオチでもない。最初の真相、そして第二の真相、これが一番驚いた。
最後の真相は、むにゃむにゃ・・・。まあ、こんな作品ないこともないなあ・・・。という感想でした。


1990年、中西智明22歳の時の最初の長編ミステリ。
このミステリマニアの青年は、この作品以降、消失!してしまったように新しい作品を出していない。そして法月氏編のミステリ・アンソロジーで、短編を読むことが出来るだけ。
このまま消えてほしくない、アイデアと力量のある作家である。
このアンソロジーのあとがきのようなところで、作者、中西氏は今、執筆に向けて準備の途中であることを述べている。
期待したいと思う。