小路幸也 『ホームタウン』
小路幸也の小説はいつも、懐かしさや悲しみを味わえて、切ない温かみの余韻が心に残るものでした。
この物語も故郷を逃げるように出てきた主人公が、ある事件を追ううちに故郷へ帰り、失っていた家族
を取り戻していく、暖かく切ない筋立てです。
主人公の妹とその婚約者の失踪の謎が、主な骨格ではありますが、ミステリとして読んだ場合はこれは、
はっきり言って失敗作であろうと思われます。しかし、謎解きなんかどうでもいいと思わされるほど、作
者の描く故郷の人々は魅力的です。
小路幸也の書きあげる世界にあまり悪人はでてきません。ヤクザさえもが、切なく哀しみを背負った人
物として登場するのです。
あとは、いろいろな作品でもそうですが、おばあちゃんが最高にいいんです。
あかるくて、元気で賢くて料理が素敵に美味しい。それなのに怖いくらい心を悟られてしまう。そして、
すべて解かった上でとても優しい。
こんな可愛いおばあちゃん、ホントにはいないのだろうし、切ないヤクザも慈愛に満ちた政治ブローカ
ーも、現実的な人間たちとは、かけはなれた人物造形なのだけど。読み進むうちに、そんな不可思議な暖
かいキャラたちが、心のすぐ傍に寄り添っているような気持ちがしてくるから不思議です。
作者の故郷、北海道が舞台のこの本は、少ししか登場しない小さな男の子にまで暖かい視線が注がれると
ても、清々しい物語です。
ミステリと思わずに、故郷と家族を取り戻す再生の物語として読んでほしい一冊ですね。