張 平 『十面埋伏』

イメージ 1イメージ 2

中国については、文学作品も、国際情勢もかなり無知な部類にはいる私ですが、この作品はあまりの面白さに一気に読んでしまったほど引き込まれました。

作者の張平(ジャンピン)は現代中国の実力派作家で、中国が抱える社会問題、政治問題を鋭い筆致で描き出しています。ノンフィクションの書き手でもあり、本書を書くにあたっても広範囲で綿密な取材をしたようです。

九月九日午後、古城刑務所第五面談室。凶悪な受刑者・王国炎(ワングゥオイェン)の口から繰り出される中国全土を震撼させた数々の重大な未解決事件の”詳細”。デタラメとして一蹴する幹部たちだったが、刑務所捜査官・羅維民(ルオウェイミン)は本能的にその重要性をかぎわけ、事件解決に向かって動き出していく。
(出版社/著者からの内容紹介) 

とにかく登場人物が熱い男たちです。主人公の羅維民(ルオウェイミン)を始め、彼に力を貸すかつての同僚やその上司たちも、正義感に溢れ、不正に震えるほど怒り、犠牲者の悲しみや怒りに滂沱の涙を流すのです。

対照的に、組織の悪人どもはこれまた、徹底的にワル。

弱いものを虐げ、権力に擦りより、不正な甘い汁を吸うのに一片の良心の呵責も感じない。

そして、ここが面白いのですが、そんな悪人どもをのさばらしている謎の権力者の正体。彼らは、政府や公安(日本の警察)組織に網の目のように、はびこっているのです。
まさに、タイトル「十面埋伏」(いたるところに敵が潜む)なのです。

いったい、誰を信用していいのか主人公は悩みます。そして、相談を持ちかけられた上司の冷ややかな態度。理不尽な制裁、圧力。

しかし、彼は信念に基づいて職務を全うしようと諦めることなく密かに行動を起こします。
そして、親友と正義感に溢れる親友の上司たちと連携して、深く密かに捜査の網を広げていきます。

協力者もまた、熱い男たちです。

見慣れない中国の名前や組織図も、作者の書き分けの妙で、頭に入りやすく、また、訳者注として、中国の習慣や組織の関係などが付け加えられて、分かりやすく読むことができました。

あとがきで、作者張平は、午前4時にこの作品を書き上げて感動のあまり涙が溢れたと書いています。
作者も熱い男の一人でした。