小川洋子『博士の愛した数式』

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わずか数時間で読み終えたこの本、出合えてよかったと心から思いました。

映画の原作かと軽くみていた私・・・小川洋子さん、ごめんなさい。

最初の1行からルートについての独創的な話で始まり、美しく切ない博士との出会いが描かれていきま 

す。

記憶が80分しか維持できない病気。

1975年で止まった記憶。

そして、限りなく美しい数式。レオンハルト・オイラーの公式。


17年前、交通事故で未来を嘱望された博士は脳に記憶障害を負ってしまった。数学教授の道は閉ざされ

博士は兄の未亡人の世話になり、小さな離れを与えられ、そこにひっそりと住んでいた。

60代半ばの初老の博士のもとに、家政婦として「私」が派遣される。最初はとまどい、障害を持った博

士の扱いに苦心しながらも彼女は数学一筋の博士の不思議な魅力に惹かれていく。

毎日通うのに、その都度、博士にとって「私」は初対面なのだ。

毎日玄関で繰り返される言葉。

「君の靴のサイズはいくつかね」

「君の電話番号は何番かね」

博士は必ずどのような数にも意味を見出す。

そして、素数に注ぐ深い愛。同じくらい小さな子供も博士の愛情の対象となった。

女手一つで育てている息子も、博士に懐き三人の不可思議な家族のような関係が築かれていく。 


理数系がまったく駄目な私ですが、本書にでてくる数学の魅力、数式の美しさには蒙を開かれた思いがし

ます。素数、約数、ルート、博士が語るとそれらは、一編の詩のように心に響きます。

ラストは、涙を禁じえませんでした。不覚にも電車の中で読了した私・・。

手元に置いて読み返したくなる作品です。

作中一つだけ謎が残りましたが、数学に詳しい方ならその意味がわかるのでしょうか?


お薦め度★★★★