ハーラン・エリスン「世界の中心で愛を叫んだけもの」
かなり昔のSF小説です。手元の文庫は1979年初版となっていますし、さらに書かれた年代はとい
うと1960年代後半!です。
エリスンを読んだ時、それまでに読んだどの本にもない衝撃を受けました。今思うと、正面から暴力や
SEXを描いた作品であったからだと分かります。そして、独特のリリカルな(とあえて表現します)そ
の文体にも非常に惹きつけられるものを感じました。
世界の中心、それは「交叉時点(クロスホエン)」という、時空をはるかに超越した究極の中心を指
す。そこから狂気と暴力が時空を超えて宇宙に排出される表題作。
ハイウェイでのスピード感あふれる死のゲームを描いた「101号線の決闘」
最後にギョッとする「不死鳥」
など、ウルトラ・バイオレンスの世界がエリスンのスピード感あふれる文章で次々と描かれていく。
そして、ラストの一編「少年と犬」で作者の言う「愛」はその姿をあらわす。
けっして読後感さわやかな作品ではないですが、「鬼才」と呼ばれたエリスンの激しいビートに乗って
暴力の支配する世界へ連れていかれるような爽快さがありました。
今読むと、私たちの社会が追いついてきたような寒々しい思いに駆られます。そして、エリスン後のS
Fが辿った道が、拡大再生産を繰り返し手垢にまみれてしまった、そんな思いもしてきます。
以前からこの作品の感想を書きたいと思いつつ、ずっと先のばししてきたのは、そんなことも影響して
いるのかもしれません。しかし、バラードやニューウェーブがお好きな方は一読をお奨めします。エリス
ンの煌く才能に触れることは、けっして無駄ではないと思います。
最後に彼のシナリオ作者としての経歴を蛇足として付け加えておきます。私くらいの年代の方はなかな
か懐かしい作品があるのではないでしょうか。
万人向けではないのでお奨め度★★★、嵌った人にとっては★★★★☆