ジェフリー・ディーヴァー 『ロード・サイド・クロス』

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陰湿なネットいじめに遭った孤独な少年。連続殺人犯は彼なのか?

交通事故を起こしたとして有名ブログで糾弾された高校生トラヴィス。個人情報はたちまち暴露され、ブログは炎上、彼の家に投石する者まで現れた。死を予告する十字架が発見されたのはその頃だった。命を狙われたのはネットいじめに加担した女子高校生たち。
 ほどなくしてトラヴィスは姿を消し、エスカレートする犯行は、ついに死者を出してしまう。少年の行方を追うのは、いかなる嘘も見破る尋問の天才キャサリン・ダンス。
 トラヴィスは孤立したオタクで、オンラインゲームでは非情な殺人者としてふるまっていたという。やはり彼が犯人なのか?一方、困難な捜査のさなか、ダンスの母親が安楽死に手を染めたとして逮捕されてしまった。

 幾重にも張りめぐらされた欺瞞。それが隠す悪辣な完全犯罪。捜査に介入する捜査局本部。妨害をしりぞけ、ひとつずつ嘘を見破り、ダンスがたどりついた驚愕の真相とは─
(カバー紹介文より)


ここしばらくディーヴァーの新刊を読んでないことに気づきました。本書も2010年の刊行なのです。

尋問の天才キャサリン・ダンスシリーズ、これが2作目にあたるようで(初登場は「ウォッチメイカー」ライムシリーズ)。リンカーン・ライムシリーズとともに、作者の代表的なシリーズものとして、その面白さも評判に恥じないものでした。
今回の事件は、いわゆる殺人予告もので、あらかじめ道端に死者を悼む十字架を設置し、それから殺人が起ると言う不気味なもの。
事件の中心には、政治的発言や活発なコメントで議論する有名ブログの存在。そして犯人の少年が、オンラインゲーム依存でゲーム内での残酷な行為が知られてしる事実が浮かび上がる。



ダンスシリーズの面白さは、相手の些細な行為や言葉のいいまわし、しぐさから嘘や感情を見抜き、推理につなげていくキネシクスという手法を使うところにあります。
ちょっと今回はそこの切れ味が以前より鈍ったような、というか、捜査自体が地道になったような。とはいえこのシリーズの面白さがそこなわれたわけではなく、ダンスの母が巻き込まれた安楽死の事件や、新しく登場したイケメン男性の存在など、いろいろ読みどころはありました。
相変わらずどんでん返しやら、読者をひっかける罠がいっぱいの作品で、楽しく罠にはまり引っ掛けられました(おい)

ディーヴァーはコンピューターやネットにも詳しいようで、過去にもそういうテーマの犯罪を描いた作品があります。(「青い虚空」「ソウル・コレクター」)今回はネットゲームやブログがからみ、まるで日本でいうと2ちゃんねるなどの書き込みのような、歪んだ世界が展開していきます。
日本や韓国などで盛んなオンラインなどのゲームのことも、さらっと触れられていたり。

特にこの「有名ブログ」というのが、アメリカの保守的な思想を主張する書き手が運営していて、このブログの作者や、読者の発言がなかなか現実の日本のネトウヨ的なものを彷彿とさせるのが、面白かったりします。
母親でもあるダンスが「そんなゲーム絶対にやっちゃダメ!!」と叫ぶシーンなど、今の日本でも90%の母親が言ってることなのでしょうね^^;
主人公のダンスがまたクールで犯罪には厳しいのに、実は心の底から人間を愛して、周りからも愛されるという暖かいキャラなのが魅力です。ライムほど皮肉屋ではないし、サックスみたいに自分に厳しくもない。食事やデザートの魅力に負けて体重オーバーしたり、趣味の一つである、奇抜なデザインの靴を買ってしまう、などちょっと弱みのあるところなど、弱みだらけの読者としては共感するところ^^;

ちょっと最後のほうで、ん?と思うこともありましたが、ネタばれしてもなんなので、このへんで〆させていただきます。前作「スリーピング・ドール」を知っていたほうがいいですね。この事件は時系列的にいえば、「スリーピング~」の2週間後らしいので。

お薦めです^^