ジョナサン・キャロル 『死者の書』

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内容(「BOOK」データベースより)
ぼくの目の前で、少年がトラックにはねられた。事故のあと町の人間が聞いてきた。「あの男の子、はねられる前は笑ってました?」笑って?…ここはアメリカの小さな町。1人の天才作家が終生愛した町。ぼくは彼の伝記を書くために逗留している。だが知らなかった、この世には行ってはならない町があることを。ファンタジィ・ホラー驚異の処女作。 


月野さんの愛する「月の骨」「死者の書」。

「月の骨」は以前読んで大変感心いたしました。今回は「死者の書」に挑戦。

なんとキャロルの処女作がこれというのは、驚愕するしかありません。それほど、巧みで、したたかでさえある文の運び、全体に流れる不気味なニュアンスに魅せられたのです。もっと若いころ出合いたかったなあ。また、マーシャル・フランスの作品が読めないもどかしさ、残念さもありますね。主人公がちょっとだけ挙げる、フランスの物語の断片が素晴らしい。タイトルもまたそそられます。「笑いの郷」「星の湖」「緑の犬の嘆き」「桃の実色の影」・・・。みな子どもが読む絵本です。


とにかく全編に満ちる空気感が尋常ではありません。ダークで電気を帯びたような街の描写が続くうちに、キャロルの描くゲイレンに引きこまれていきます。

主人公トーマスは愛する作家マーシャル・フランスの伝記を書くために作家が終生愛したゲイレンという街を訪ねます。フランスの家には彼の一人娘アンナがひっそりと暮らしている。
そこに滞在することを許されトーマスは恋人のサクソニーとともに、フランスの足跡をたどり始めます。
アメリカの片田舎の町ゲイレン。ぱっとしない小さな町。しかし、住んでみると何か不可思議な謎がありそうな、どこか歪んだレンズをのぞいているような、そんな妙な街なのです。

前半のゆったりした展開から一転、後半は謎が明かされホラーファンタジー的な展開になり物語もどんどん進んでいきます。そしてラストまで、一分の隙もない筆の運びで、驚愕の終幕を迎えます。
いや、伏線が尋常じゃない・・・。
私の戯言は無視というか、さっぱり忘れて、白紙のまま読んでほしい傑作でした。